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最終試験

特殊な業種や世界的な規模でもトップクラスの大手企業であれば、その人材の確保においては、入念に枠組みのなされた厳密な採用試験といものが必要不可欠になってくるのは、当然だと言える。特にその業務というのが、人間の命や国家の将来に影響を与えるようなものであれば、その人材の確保にはさらに、慎重ならざるを得ないことだろう。

 その事を実にわかりやすく、サスペンススリラーのタッチで制作された映画「EXAM」を今回紹介したいと思う。2009年に制作されたUK発の映画で字幕版もYOU TUBEに出ているので是非お勧めしたい。ある世界的に名声の高い、バイオテクノロジーの製薬会社が求人を行い、最終的に残った8人の候補者達が最終試験で席につくシーンから始まる。
 試験官は、白紙の試験用紙を配り終えて皆に伝える。ここではたった1つの質問が提示される、それに対し、1つの答えを見出して欲しい,と。その答えを見つけた者がこの最終試験の合格者として雇用契約を結ぶことができるという。そして、失格・退場となる3つのルールが示され、80分の制限時間を図るタイマーが画面で秒単位のカウントを始める。白紙の用紙を不安と当惑で見つめる候補者達に「何か質問はありますか?」そして、無言で周りを見回す8人の候補者たちを残して、試験官は会場を去る。

 8人の候補者たちは、いずれも能力に秀でた自信家達の集まりであるにもかかわらず、まずは何が質問なのかがわからない。きっとこれは協調性や探求性を計る試験に違いないと、最初は協力し合って質問が何なのかを、ルール違反とならないあらゆる方法を使ってみんなで試していく。中には高い知能であるが故に頭のおかしくなる候補者や、意に反してルールを破り退場となる候補者も出てくる。
 1人去り、また1人去りと候補者が4人に減った辺りから、その様相は猜疑心と野心に満ちたものへと変容し、互いに危害を与えかねない状況となっていく。制限時間が残り少なくなるにつれ、その危険度は悪化していく。銃を突きつけて他の候補者に退場を強いたりと、残った候補者は生きるか死ぬかの瀬戸際まで追い詰められ、最後に1人の候補者がとうとう答えを見つける。

 少なからず、正常な常識と道徳観を持ち合わせたその勝者は、その採用試験の人道を無視した過酷さに採用側に辞退を申し出る。ここで企業は勝者にその過酷さの理由を説明し始める。偉大な資産を誇る企業での、命に多大な影響を与える研究開発においては、判断力と決断力だけでなく、許容範囲をはるかに超えたジレンマに対する忍耐力、無用と思えるものにも目を向ける観察力、言葉に隠された意味を聞き取る注意力、そして最後にこの企業に対する熱意を知る必要があった、と説得する。
 
 この話はあくまでも、映画という虚構の世界での出来事ではあるが、決して有り得ない話しではないと思う。その企業の持つプロジェクトの深刻さ次第では、安定の為、名声の為と志望してくる者には太刀打ちすることのできない、その莫大な資産に応じた責任や社会に対する使命というのが存在するに違いない。そこで必要とされる能力というのは、どんな優秀な大学を卒業したか、あるいは優秀なキャリアを積んできたかというよりも、むしろ、日常生活においてどれだけの苦難に遭遇し、いかに自分1人で解決してきたかで、知らずと身に付き磨かれていく能力とも言えるのかもしれない。