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どこにでもいそうだけど実はいない

いくえみ綾さんの『I LOVE HER』は、非常によく人物構成ができていると思います。新ちゃんと親しまれる教師と思いやりに溢れている生徒の花ちゃんのラブストーリーと言ってしまうとなんとなく陳腐にも感じるが、出会い方や少しずつお互いの距離感が縮まっていく様子がとてもナチュラルで、違和感がないです。

当然、恋愛物なので王道の展開はあります。
例えば、花ちゃんとクラスメイトの女の子が新ちゃんを巡っていざこざが起きたり、新ちゃんの元カノが現れたりして、確かに色々あります。
色々あるんですが、このマンガのすごいところはこうした問題に対して、花ちゃんは泣かない、ということです。そして、クラスメイトの女の子に対しても元カノに対しても正々堂々としていて、時には相手を気遣う優しさまで兼ね備えているところです。
通常であれば、嫌がらせを受けて傷つき、意中の相手に助けてもらう、というのが基本になりますが、このマンガではきちんと花ちゃんが対処しています。しかも、ちゃんと和解しているのです。

特に感動できるシーンが、ずっと花ちゃんをライバルとして敵対視していたクラスメイトの女の子との関係が良好になる部分です。
お互いが同じ人を好きで、両極端な性格をしているから相容れないはずなのに、花ちゃんの家が大変な時にその子はかけつけてきたりします。それはひとえに花ちゃんの人柄が成せる業であり、本来その子も悪い子じゃない、という部分が理解できてとても本沸かした気持ちになります。
また、この二人は実は置かれた環境が似ていて、お互い父親という存在に良いイメージを持っておらず、どこか父親に頼ることが許されなかった部分を新ちゃんに投影しているような感じがします。
ライバルの子は花ちゃんに家庭のことを聞き、花ちゃんはあっけらかんと「お父さんは他に女作っていなくなったよ」と言います。そんな花ちゃんの態度が不思議だったのか「どうして笑ってられるの?」とまた聞くのです。
その時の花ちゃんは少しだけ困ったような顔をして、また笑って言います。
「泣きながら言えっつーの?」
この瞬間、二人の中で何かが変わるんです。共鳴、という言葉がぴったりなくらいに心が近くなり、結果的にライバルの子は花ちゃんを認め、付かず離れずの友達と呼んでいいのかわからない関係性を築きます。
こうした部分が他の少女マンガと違っていくえみ綾さんのすごいところだと感じます。いつも、いくえみ綾さんの描くマンガのヒロインというのはとびきり可愛いわけでも美人というわけでもないのですが、その方がよりリアルに自分の半径5mくらいの感覚で共感しやすいのではないかと思います。
新ちゃんもどこにでもいそうな顔をしているけれど、きっとこんな人が近くにいたら絶対に好きになってしまうのだろうな、という魅力を持っています。特に笑顔が可愛らしくて、女性のツボを心得ているような表情をします。

恋愛をしている時、失恋をして前を向きたい時、色んな場面で何度も読み返したくなるマンガの一つです。