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本当の思春期は30歳手前なのかもしれない

渡辺ペコさんの『にこたま』というマンガの冒頭はなかなか衝撃的です。
「俺、子供できた」と5年同棲している彼氏にそう伝えられた彼女であるあっちゃんは放心状態になってしまいます。あっちゃんとコーヘーのカップルが主人公となり、長期間の交際と長期間の同棲が原因で結婚に踏み出せなかった2人の関係が変わって行く様を見せられます。
大人になってからの恋愛というのは非常に繊細です。
結婚目的で出会うわけでもなく、だけど結婚は意識したい女性が多いのに男性は結婚意識の低い人が多いです。このズレがどこか温度差を作り、交際が長くなればなるだけ「結婚」という一時のゴールに達しにくくさせます。けれど、決定的な何かがあるわけでもなければ「別れ」を決意することもなく、別れてしまえば結局一緒にいた年月はなんだったのか、年齢だけを重ねてまた1から恋愛を始め、見えない結婚を追い求めるのか、と不安に感じます。
このマンガの主人公の2人も同じです。夢だった弁当屋に勤め、料理が上手でそこそこモテる割に冷めているあっちゃんと弁護士として働くちょっとなよなよしたコーヘーは交際9年の共に29歳です。同棲も長い間しているし、そのうち結婚するのだろうなと思っていたあっちゃんでしたが、出来心で浮気してしまったコーヘーは会社の先輩を妊娠させてしまい、1人で生んで育てます、と言う相手の女性の言葉への責任感とあっちゃんへの罪悪感でついにあっちゃんに伝えてしまう、というところから物語は始まります。
現実的にイメージしてみると非常に重苦しく、嫌な内容ですが、軽快なテンポとあっちゃんのさっぱりした性格のおかげでそこまで苦しい気持ちにならずに読めます。

一般的に男女が恋愛をすると終わらない関係を望むものですが、この2人は終わらないと思っていた関係が終わりそうというところから始まってしまいます。こうした爆弾が投下されてしまったことによって、そのうち結婚できるだろう安定した関係が一変し、本当に自分は相手を好きなのだろうか、どうして私達は一緒にいるのか、相手は自分のことを愛しているのか、と言った心の中をもう一度開かなくてはいけなくなりました。
この心というのは不確かなものなので、口でどう言われても結局他の人を妊娠させた人、という事実がある限り信じきることができません。
結果的にどうすることが2人にとって、そして、自分自身にとって良い方向に進むのかということを決めます。その時あっちゃんが思う言葉がとても印象的でした。
「こういうのも悪くなかったって思えるように頑張ってみようよ」
こんな風に思えるほどの人だからこそ、自分と生きていく1人として認めているのだなと感じます。この部分が妙にリアルで、自分だったどうするのだろう、どんな決断をするのだろうとなぜか自分で悩みました。